人間だって生もの『人体の構造について』
2024年12月2日
2024年12月10日
自分は今まで手術は盲腸だけ、全身麻酔が良く効きすぎたのか目覚めると下半身の感覚が全然なく、腰から下があった場所に寒さの塊を直接縫い付けられたような感覚とそれに対し今まで感じたことの無い原始的な恐怖を味わったことを思い出す。
実際は布団を被っており暖房まで効いていた環境だったので寒いわけなんて無いのだけれど。
思い返すと、戦争映画で偶に見かける部位が吹き飛んだ人の”寒い””怖い”の感覚を疑似的に味わえたと思うと貴重な体験だったのかなとも思う。
手術に対して過去の体験位の浅い認識しかない自分が、ミニシアターの予告で本格的に手術を覗くドキュメンタリー映画が上映されると知り手術を通じて人体の仕組みが学べるのかと興味半分、怖いもの見たさ半分で臨む事とに。
タイトルが表示され配給会社は「トランスフォーマー」、個人的にはバッタもん映画を多数配給しているイメージが付いている社名だけにこれはマズったかと不安がよぎる。
然しながら「TBS ドキュメンタリー シリーズ」みたいなロゴも出てきた為少し印象は盛り返す。
本編開始、夜の道を歩く男と連れられて歩く犬の映像が5分続く。
夜道から建物に入って人とすれ違う、只それだけの内容。
説明も無く面白くない映像に手振れと寄りによる画面酔いの気持ち悪さまでかましてくるので気分が段々落ち込んでくる。
どうやらこの作品はフランス パリの総合病院に密着したものである事が後々わかってくる。
犬と歩く男の映像は恐らく病院勤務の警備員の出勤風景だったのだろう。
”恐らく”と書いたのはこの作品、2時間の尺の中でナレーションや文字による説明が一切無いので全て映像から中身を読み取らなければならないからだ。
基本的に映画の構成はこうだ、
警備員の巡回
↓
看護師と医師の会話(切除した患部の観察をしながら)
↓
手術映像
↓
隔離病棟の患者の観察
↓
(警備員の巡回 に戻る)
メインパートである手術映像は見応えがあって、普段は医師しか見れないであろう内視鏡による小腸や脳、極めつけは男性の股間内部をドアップ且つスクリーンで見る事が出来るのは楽しい。
自分たちの身体の中という狭い世界にも非常に多数の要素が含まれている事を実感できる貴重な体験なのは確かだ。
画面にでかでかと映る無修正男性器に極太カテーテルを突っ込むシーンは思わず身が強張る。
吸引用の管を床に落としたから使えない!みたいな現場でのトラブルのやり取りも映っているのが生々しい。
切開による手術シーンもあり、脊椎にボルトを埋め込んで固定する手術、帝王切開による出産を観察する事ができる。
両者に共通するのが手術は思っているよりも繊細では無いという所だ。
脊椎の手術は木づちとテコで背骨をポコポコ外していくし、帝王切開は医師二人が切開した腹を破れんばかり力づくで広げて赤ん坊を引きずり出す。
そんな現実を目の当たりにし何処か神聖視していた手術という行為が、単なる専門的なお仕事である事実に気付くことができる。
看護師と医師の会話パートもまあまあ面白い。
切除した患部(乳房、胎盤)の処置を実施しながら会話が展開されるわけだが、その内容は基本的に多忙である、休憩が無い、人が居ないといった問題の愚痴であり何処の国でも共通問題でなんだな位の中身。
映像は切除した患部をサンプル化するために小分けにしたり、元乳房を切り裂いて実際の腫瘍の大きさはどの程度であったかの確認をするものが流れるが、その行為が料理で肉を捌くそれと同じ流れで行われるのでヒトも生肉なんだなと思ったり。
この2パートが映画の8割を占めているならば満足できる出来になったかもしれないが、実際には半分位しかなくもう半分を非常に虚無なシーンが延々と続くので辛い。
先ほど記載した警備員の巡回パートは度々挿入されるものの本当に只地下通路を歩いているだけであり、何を見せたいのか全然伝わらず。
時折無線でどこどこに来てくれみたいな内容が流れはするものの現地での応対等は見せずひたすら歩いているだけ。
少なくとも5*4の20分はこのパートを見せられるので堪ったもんじゃない。
隔離病棟の患者の観察パートも問題で、歩幅が非常に狭い老婆2人が手を繋ぎながらぶつぶつと「もっと早く歩いて」「うん」「もっと早く歩いて」「うん」と言った会話になっていない受けごたえを延々と繰り返しながら隔離病棟の廊下を歩くシーンを10分間は見せられる。
これも1度ならまだ、まだ許せるが3回ほど10分尺で見せられるので非常に厳しい。
半分は面白い映像、もう半分は尺稼ぎ、ここまでであればまだ許せる耐えられる作品であったのだがラスト10分で我慢の限界を迎える。
ラスト10分は医師の送別会が最後に差し込まれるのだが、サイケな音楽で盛り上がる送別会パーティをそのまま映してりゃいいのに、実際に流れる映像は送別会の騒音とともに病院のどこかの部屋の壁面に描かれた「最後の晩餐等の宗教画に恐らくは病院の医師の似顔絵をコラージュした様なものに下ネタを付け加えた様な壁画」をまじまじとズームで流し続けるといった全く中身の無いもの。
意味があるものならばまだしも稚拙な尺稼ぎにしか見えないそれは馬鹿にされている様で単純にムカついた。
色々な気付きは確かに与えてくれる内容なだけに、映画としての技術が見当たらず作品としての出来が悪いのが哀しい。
こういう類のドキュメンタリー作品で出来のいい奴があればそれで口直しを図りたいと思う。
※結構グロいっちゃグロいので耐性の無い方は視聴を控えた方が賢明かもしれません。
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